KYOTO

はてなさん上場おめでとうございます。ということで京都のこと

 

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You can't find anything but Matcha tea flavour in KYOTO.

わたしはシンカンセンに乗ってキョウトにやって来た。キョウトは日本の西にある都市だ。かつては日本の首都だったこともある。千年以上にわたって栄える、長い歴史を持つまちだ。

日本は良いところだ。特に食べ物の充実ぶりはすばらしい。肉も魚も野菜も食材が豊富で、いずれも工夫された調理法をほどこし、洗練された味付けがされている。そしてとても健康的だ。おまけに値段も高くない。日本の食事であれば一生食べ続けてもいい、わたしはそう思った。するとキョウトの大学で働かないかと友人づてに話が来たので、わたしは喜んでそれを受け入れた。

キョウトに着いたのは寒い冬の日で、ひどい雨が降っていた。昨日降った雪のあとに雨が降り続き、道路がぐしゃぐしゃになっている。シンカンセンの駅を降りてまちに出てしばらく散策することにした。近代的なビルのすぐとなりに古いお寺があったりして、風情のあるまちなみがとても気に入った。

しかしわたしはある異変に気がついた。

食べ物のパッケージがすべて緑色なのである。普段見慣れたお菓子も、全て緑色に変わっている。日頃食べ慣れたキットカットきのこの山もアポロも、全てが緑色だ。これはいったいどうしたことなのだろう。そういえばキョウトでは景観を守るために、マクドナルドのサインが赤でなく落ち着いたブラウンになっていると聞いた。この食べ物たちもそういうことなのかもしれない。

わたしはコンビニエンスストアで好物のジャイアントカプリコを買い求め、店の外に出て食べた。日本では、たとえ自分が購入したものであっても、店内でものを食べると品がないといって怒られるのである。ジャイアントカプリコを口にしたわたしは、それが抹茶味なことに驚いた。パッケージが緑になっているだけではない。味も変わっているではないか。驚いて一緒に購入した水を飲んだら、それも抹茶味だった。なんてことだ。

食べられないとわかると、無性に食べたくなるものだ。わたしはお気に入りのいちご味を探し求め、キョウトのあらゆる店を回った。デパートから個人商店、自動販売機に至るまで、可能性がありそうなところを全て回ってみた。しかし、どこまでいってもそこには抹茶味のものしかなかった。走り回ってお腹が空いたのでファストフード店に入ってハンバーガーを頼んだ。値段は普通だったが、カウンターに店員が差し出したのは緑色のパッケージで、それもやっぱり抹茶味だった。付け合せのポテトにも緑色の粉が降りかかり、コーラも緑色でやっぱり抹茶の味なのである。

わたしはとんでもないところに来てしまったのかもしれない。

夕方、へとへとになったわたしは町外れにある駄菓子屋に入り、店番のばあさんに「いちご味のジャイアントカプリコはありませんか」と聞いた。ばあさんは耳が遠いようで、「はあ?!」と聞き返した。わたしは声を大きくして何度も繰り返し聞かなくてはならなかった。5回くらい叫んだところで、いままで半分居眠りしていたばあさんの眼光が突然鋭くなり、はっきりと言った。

「あんさん、外国の人やから知らんのやろ。このまえのダボス会議でな、法律が変わって、キョウトでは、抹茶味以外の食べ物を売るのが違法になりましたんや。キョウトには抹茶味でないものはあらしまへん。おばんざいもおせんもおまんも抹茶ですえ。かんにんしとぉくれやす」

なんということだ。ここにいたらわたしは抹茶味でないものが食べられないというのか。

「おばあさん、そんなのはいやです。わたしは、いちご味のジャイアントカプリコが食べたいのです」

ばあさんの眼がぎらりと光った。ばあさんは周りを見回すと、おもむろにわたしに顔を近づけ、押し殺した声で言った。

「仕方ない、そしたら教えてやるわ。明日、ヤミ市があります。場所は堀川団地の3号棟の一番北側ですえ。抹茶味でないものは、そこでしか買えまへん。警察もそこかしこにいてます。見つかったら捕まりますえ。牢屋にポンや。あんじょうやりなはれ」

わたしはばあさんに情報のお礼を渡し、そこを去った。このまちにいる限り、わたしはもう抹茶味のものしか食べられない...わたしは大学が借りてくれたアパートに向かった。足取りは重かった。途中入ったレストランも、やはり全てのものが抹茶味なのだった。

次の日、わたしは近所の喫茶店で出された抹茶味のトーストと抹茶味のジャム、抹茶味のゆでたまご、抹茶味のハムエッグというモーニングを見て天を仰いだ。絶望しかない。どうにかやりすごし、わずかな希望を求めて堀川団地に向かった。

団地は第二次世界大戦前に建てられたもので、かなり古く、いまはほとんど住む人もいない。植え込みには雑草が生い茂り、建物にはところどころにヒビが入っている。3号棟に行くと、周りをきょろきょろと見回しながら、足早に部屋に入っていく人を何人か見かけた。わたしも周りをきょろきょろと見回し、人気がないのを確認してその部屋のドアを開けた。

ドアを開けると、想像よりも広い空間が広がっていた。部屋をぶちぬいてワンフロアにしているのだ。そこの中には、ところ狭しとヤミ商人が抹茶味でない食品を拡げ、買い求める人がぎゅうぎゅうに入って押すな押すなの大盛況だった。わたしは人を押しのけながら商品を見て回った。ああここではキットカットも、アポロも、きのこの山も、すべてが緑色ではない普通のパッケージだ。

いちご味のカプリコは、市場の一番奥にある露天にあった。片目のない親父が後ろ暗そうなまなざしで無愛想に売っている。

カプリコください」

「1万円だよ」

カプリコが1万円?!なんということだ。普段の100倍近い。しかし気が弱いわたしは値切ることもできず、なけなしの1万円を親父に払った。にやりと笑う親父。わたしは恐ろしくなり、そそくさとヤミ市を後にした。

そうして手に入れたカプリコは、すこしパッケージがよれているものの、質はまったく問題なさそうだった。わたしは鴨川まで歩いて、土手に座った。周りにはカップルが等間隔で座っている。天気の良い日だ。太陽がまぶしい。わたしはカプリコをカバンから取り出し、パッケージをくるくるとむいた。夢にまで見たいちご味だ。いざ食べようと口に運んだところで、誰かがわたしの腕を掴んだ。

「警察だ。抹茶味でないものを食べた現行犯で逮捕する」

しまった、ついうれしくてばあさんの忠告を忘れていた。それにしてもこんなに簡単に見つかるなんて。

以上が今回の顛末だ。いま私はこれを留置所の中で書いている。もちろんここで出される食事もすべて抹茶味である。

BGM:矢野顕子「KYOTO[京都慕情]」